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あなたは笑って大往生できますか


 7月17日の新聞で、日本人の平均寿命が男女とも過去最高を更新したことが報じられました。女性は86.05歳で世界第一位、男性は79.29歳で世界第四位です。寿命はどこまで延びるのでしょう。理論的には120歳までだという説もあります。

 現在60歳に到達した女性の平均余命は28年です。つまり60歳まで生き延びた日本人女性のおよそ半数は88歳を超えて生きることを示しています。まさに人生90歳時代が実現しているのです。しかし、長生きすることがその人の幸せにつながるかというと疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。

 いくら寿命が延びても、人はいつか亡くなります。厚生労働省が発表した、平成19年の死因順位トップフォーは「悪性新生物(30%)」「心疾患(16%)」「脳血管疾患(12%)」「肺炎(10%)」です。この上位四つで死因の68%を占めます。つまり三人に二人です。特に亡くなる方の三人に一人は悪性新生物(ガン)が原因となっています。残りの三分の一の内訳は、「不慮の事故(3%)」、「自殺(3%)」「老衰(3%)」「腎不全(2%)」「肝疾患(2%)」等と報告されています。

ガンにかかる人は二人に一人

 今では、本人にガンを告知することが普通になりました。しかし、今から35年前、日本にガン保険が初めて登場した当時、ガンを告知することは殆どなされませんでした。ガンは不治の病と言われ、告知は死を宣告することと同じだったのです。

 本人は、ガンを宣告されないまま、残りの闘病期間を病院のベッドで過ごし、やがて息を引き取ることが一般的でした。入院日数に応じて給付金が支払われる医療保険の支払いには上限があります。通常120日を越えて入院した場合は、入院給付金の支払いは打ち切られるのです。しかし、当時、ガンによる入院は長期化することが多く、高額の治療費負担が大きな問題となっていました。

 ガン保険は、その名の通りガンに特化した保険です。そして最大の特徴は、入院給付金の支払い日数が無制限であることです。このことが、ガンにかかった場合の費用に不安を感じる人々にアピールし保険商品としては異例のヒット商品となりました。

 日本人の三人に一人が、ガンが原因で亡くなると紹介しましたが、医療技術の進歩で早期ガンの発見率や治癒率の向上により、ガンにかかっても完治するケースも増えています。死因がガンではないが生存中、ガンの治療を受けたことがある人を含めると、じつに二人に一人はガンにかかると言われています。長寿社会は、ガンとどのように付き合うかが問われる社会とも言えます。

どうやって長生きするかより、いかにしてより良い死を迎えるか

 「FPをやっておられるのなら是非お読みになると良いのでは」と近所に住むご婦人から一冊の本を紹介していただきました。本のタイトルは「あなたは笑って大往生できますか」、著者は朝日俊彦氏です。現在は四国でクリニックを開業していますが、いち早くガン告知を始め、終末期医療に造詣が深いベテランの医師です。

 朝日医師は、余命宣告を受けた多くのガン患者に接してこられた体験と経験をテーマに講演活動も多く行っています。死にいたる病にかかるのなら「ガン」が一番お勧めだと、持論を本の中で展開しています。長寿社会に生きる心の持ち方、死に対する考え方について、末期ガンとなった患者やその家族に対し、どの様に接していくべきか、実に示唆に富んだメッセージが含まれています。

 「健康で長生きすることはお勧めだが、幸せとは、すなわち長生きだと考えるのは間違っている。人間いつかは死ぬ。死ななかったら、逆に困りますよ。」と朝日医師は言います。「どうせ死ぬのなら、うまく死ねる対策を練っておくことも大事」、そのための具体的な心構えや方策を教えてくれます。

 専門分野のガンに対し、「ガンは早期発見、早期治療だといいます。壮年期の人に対しては、そうあるべきだと思います。しかし、高齢の人の場合には、ガンを見つけた方が、かえって不幸かも知れません。見つけたばかりに、治さなければなりませんから」と、エッと思うようなことをずけずけ述べています。

患者の何を治すのか

 日本人の寿命が延び続けている要因の一つが医療技術の進歩であることは間違いありません。しかし、「医学は人類の幸せのために発達してきたが、使われ方を誤ると、かえって不幸の再生産、再拡大になっていく危険性をはらんでいる」と指摘しています。

 朝日医師が書かれた本の中のエピソードを一つ紹介します。82歳の患者とのやりとりです。

 糖尿病を患ったご主人は、とにかく甘党で、病気のことを心配する奥さんは、買い物にでかける時、ご主人が甘い物を食べないように隠します。ところが奥さんが買い物に出かけたのを見計らって家中探し回り、甘い物を口にしようとご主人は必死の努力をします。この繰り返しで夫婦はお互い疲れきってしまいます。この夫婦が外来に来て「疲れるんです」と朝日医師に訴えました。

 医師は奥さんに聞きます「もしご主人が亡くなったら、仏壇にご主人の好物だったまんじゅうやおはぎを供えないの?」。すると奥さんは「それは主人の好物だから毎日でも供えてやります」と答えました。今度はご主人に聞きます「あなたが死んだら仏壇に好物を供えてくれるそうだけれど、今食べるのと、死んでから供えてもらうのと、どちらがいい?」。ご主人は答えます「今食べるのがいい。死んでからは供えてもらわなくても構わない」と。

 そこで奥さんに「もう食べさせてあげなさい。もう構わないじゃないか。ご主人の健康管理をするのは悪いことではないが、健康管理しすぎて、あなたの方が先に死んでしまったらどうしますか?」と言いました。すると奥さんは「私は子や孫に恨まれます。私はこの人を見送ってからでなければ、死んでも死に切れない」と言うわけです。

 「甘い物を食べさせなかったら、いつまでも死なないよ。今晩から食べさせなさい」と医師が言うと、それまでニコニコして聞いていたご主人が真顔になって、「ということは先生。私に早く死ねというのですか?」と聞きます。

 「そうですよ。あなた考えてご覧なさい。奥さんより長生きして何かいいことがありますか?」、そう答えるとご主人は、「私は妻より先に死ねなかったら、妻に取り残されたのでは、一生の不覚です」と言うので、「では、せっせと美味しい物をいただいて、奥さんより先に逝くよう努力しましょうね」と言って、帰ってもらったんです。
 とても普通の医師でないことが上記の患者とのやりとりからわかります。終末期の患者を多く診てきた経験から、医師の仕事は患者の体を治すことが絶対的な一番ではなく、時には患者の心を癒したり、考え方を諭すことの方が大切だとの信念を抱くようになったのです。

屈託のない明るい老人になりなさい

 やがて訪れる人生のたそがれ時に備えて、どのような心の準備をしておけば良いのでしょうか。豊富な終末期医療経験から、老人は「明るさを身につける」ことが大切だとの結論を得たそうです。

 明るさを身に付けるとは、物事を前向きに捉えることにつながります。年をとることで何らかの病気になることは避けることができないと思ったら、「将来自分はどんな病気になるか、どんな病気が好みか考えてみるのも悪くはない」と明るく考えるのだそうです。

 ガン、心疾患、脳血管疾患は三大生活習慣病(昔は成人病と呼んでました)です。心臓麻痺はポックリ亡くなります。本人は、苦しむ間もなくあの世に行けますが、残された家族は大変です。脳溢血・脳梗塞は、一命取り留めたとしても、長い間、本人は苦しい闘病生活を強いられる上、介護の負担が大きく家族にのしかかります。これと比べて、ガンは魅力的な病気だと朝日医師は言います。ガンでは死にいたるまで時間が残されます。その間に生前成し遂げるべきことを行う余裕が持てるからです。

 まあ「ガン」でも仕方がないか。あるいはむしろ「ガン」でよかったかも知れないという結論に達することができれば、随分と気が休まるはずです。「多くの方が、ガンになったら治そうとします。そこから不幸が始まるわけです。せっかくガンになれたわけですから、どうやったらうまく死ねるかを考えていくと楽です。治そうとするから大変なのです。」とたたみかけてきます。

終わりを考えることで今の過ごし方を見直す

 「あなたは笑って大往生できますか」が出版されたのは2006年、朝日医師60歳の時です。当時、朝日医師は健康そのものでした。自転車での往診も精力的にこなしていたそうです。ところが昨年9月、末期の胃がんが発見されました。まさしく紺屋の白袴です。

 それから半年後、今年3月21日と22日、二日間に渡りNHKラジオ深夜便で「こころの時代“がんになって教えられたこと” 医師 朝日俊彦」というテーマでインタビュー番組が放送されました。番組の録音をじっくり聴いてみました。抗がん剤の副作用と共生しながらも、それまで患者に語っていたことをしっかり実践している様子を淡々と語っておられます。

 家族会議で、自分の症状をすべてオープンにしたそうです。妊娠中の娘さんから「喪服のマタニティは持っていないので、孫が生まれるまで待ってくれ」と明るく言われ、気持ち的に大いに助かったと述べていました。

 残された時間は限られています。「あれもこれも」と考えるとあせりの気持ちになりますが、「捨てるものは何か」と発想を変えたことで気が楽になったとも語っていました。長年書き綴ってきた日記に「あせらない、あせらない」と書くことが多くなったそうです。

 まさしく、「明るさを身につける」ことの大切さを、身をもって示してくれています。

 「人生のステージと三つの退職」というFPエッセイの中で、逆算の発想で物事を考えることが大切だと述べました。「終わり良ければ、すべて良し」となるためには、終わりの姿をはっきりイメージすることが不可欠なのです。

 朝日医師の本を読み、語りを聴いたことで、自分のサードステージに向かっての心構えに参考となるヒントを沢山与えられたことに気づきます。そして、朝日医師の考えを受け止めたとき、次のアメリカ先住民のことわざを想い起すのです。

「あなたが生まれた時、あなたは泣いて、周りは笑っていたでしょう。だからあなたが死ぬ時は、周りが泣いて、あなたが笑って死ねるような人生を歩みなさい。」


'09.7.22  木下 利信