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ショック・セラピーと分水嶺


 11月4日の米大統領選でバラック・オバマ氏が第44代アメリカ合衆国大統領として選出されました。47歳の若きリーダーの誕生です。オバマ大統領の登場で米国が変わるのか、そして世界の情勢がより良い方向に向かうのか、期待を持つ人が多くいると思います。私もその一人です。

 9月15日のリーマン・ブラザーズ破綻を切っ掛けとし、NY株価は急降下し、瞬く間に世界の金融市場に荒波が伝播しました。このことがマケイン氏に圧倒的な差をつけてオバマ氏が勝利した要因になったと言われています。

 米国大統領選挙は300日間という我々日本人には信じられないくらいの長期戦です。この間じりじりとオバマ氏の人気が上昇してきたとはいえ、共和党が副大統領候補としてサラ・ペイリン氏を起用したことで一時マケイン氏が優位に立った場面もありました。しかし最後は、リーマン破綻後の50日で大勢が決したのです。

 100年に1度と言われる金融危機とケネディー以来と言われる米国民の熱狂的な支持で選ばれたオバマ大統領の誕生をみて二つの言葉が頭に浮かんできました。「ショック・セラピー」と「分水嶺」という言葉です。

ゆで蛙か、飛び出し蛙か

 「ゆで蛙現象」という言葉があります。蛙(かえる)を水に入れ、少しずつ熱くしていくと、蛙はその変化に気付けず、やがて「ゆで蛙」となり命を落としてしまう。しかし、熱湯に入れた蛙は、ビックリして飛び跳ね、命が救われるというものです。変化の緩急による対応の仕方の違いの例えとして分かりやすい話です。

 ゆで蛙現象の対極にあるのがショック・セラピー(療法)です。このショック・セラピーという言葉は、1980年代終盤、東西冷戦構造が終わり、旧ソ連や東ヨーロッパの国が市場経済化する、そういう大改革をするときに使われた言葉で、コロンビア大学のジェフリー・サックス教授が提唱しました。医療の世界で使われる電気治療等のショック療法とは違った意味です。

 世の中が大きく変化するとき、ショック・セラピーが必要だと言われています。税の仕組みを抜本的に変えるといった経済改革、共産主義から資本主義へ移行するといった政治改革、これら大改革を行う場合、必ずといってよいほど総論賛成各論反対の大合唱となり、結果関係者多くが変化の実行に反対します。「そんなことをやったら、痛みが急に生じる、ショックをできるだけ和らげなければいけない」、まさに緩やかなそして暖かい改革をやれということになります。

 「そういう改革は絶対にできない。なぜならば、ちょっと改革を緩めると、その間にムクムクと反対する人たちが力を持ち上げて、結局元に戻されてしまう」とサックス教授は指摘します。ショック・セラピーというのは、「思い切って一気にやらなければだめだ」という意味なのです。

 米国民はサブプライムローン問題やリーマン破綻後の金融市場の混乱を体験したことで、過去の延長の考えや方法では駄目だと瞬時に理解したのだと思います。誰が過去の考えややり方を変えられるのか、といった目線で二人の大統領候補を比較したとき、オバマ氏にその答えを重ね合わせたのではないでしょうか。

水は低きに流れる

 日本山岳会が創立100周年記念事業のひとつとして、「中央分水嶺踏査」を実行しました。3年をかけ、北は北海道・宗谷岬から南は九州・佐多岬まで全長約5000kmの日本海と太平洋を分かつ中央分水嶺を一本の線で繋ぎ歩き、踏査するというもので、約6,000人の会員がそれぞれの区間を分担し、2006年11月に全てのルートを完踏しました。

 天から降ってきた雨水は川となり、その川はいずれ日本海側、もしくは太平洋側に流れ込みます。降った

日本山岳会のホームページより

雨が日本海側に流れ出るのか太平洋側に流れ出るのか、その境となるところを分水嶺と呼びます。そしてその分水嶺をつないだ線を中央分水嶺と呼びます。(図の赤線が中央分水嶺)

 制度を大きく変える変革はまさしくこの分水嶺を越えるか超えないのかのせめぎあいだと思います。いかに水の流れを変えようとしても分水嶺の手前でとどまっていては、いずれ同じ側に流れ着くだけです。しかし、一旦分水嶺を越えることが出来たらもう元の側に流れが行くことがありません。

 米国民は今までの価値観や国の制度を大きく変えて欲しいとの期待から「チェンジ」をスローガンとして掲げたオバマ氏を次期大統領として選択しました。まさしくショック・セラピー(思い切った改革の早期実行)を期待してのことです。

 しかし、オバマ氏が正式に大統領就任後、実際に超大国としての新たな価値観の共有と具体的な制度の変革が実行に移され、今までの米国とは違った方向(海岸)へ向かって行けるかは、米国社会の中に存在する見えない分水嶺を越えられるかどうかにかかっているのです。

日本にショック・セラピーは起こるのか、分水嶺は越えられるのか

 現在日本が抱える大きな課題は幾つもあります。少子高齢化による人口減少、長寿化に対応した介護システムの維持といった社会福祉制度の問題、それに食料自給の改善、エネルギー調達の多様化といった資源問題、更には、莫大な額となった財政赤字の問題等です。これらは何十年も前から大きな問題となることが予測できていたことです。そして効果的な手を打たない限り、状況は益々悪化していくことも分かっています。

 しかし、大事にされるべき出産を控えた妊婦が安心して治療を受けられないとか、農業後継者が育たない農業政策とか、何等効果的な対策が採られているようには見えません。これらの問題の共通点は少しずつ悪化しているということです。つまり「ゆで蛙」の状態がずっと続いているのです。

 日本の国民が共有する価値観や制度の大変革は、明治維新そして太平洋戦争の敗戦で経験しています。従って、今後も大きな改革を成し遂げる可能性は十分あると言えます。しかし、今日本という国の仕組みのどこが問題で、どのような形が目指すべき姿なのかといった分水嶺の向こう側を分かり易く、共感を呼ぶ形で示してくれるリーダーの存在が希薄です。

 米国大統領選挙を見ていて、国のトップを選出するプロセスを今回ほどうらやましく思ったことはありません。しかし、私のモットーは「あせらず、あきらめず、明日を明るく」です。日本にも素晴らしい政治のリーダーが現れる期待は持ち続けたいと思います。

'08.11.18  木下 利信