住宅資金 ・ 教育資金 ・ 老後資金 ・ 保険 ・ 年金 ・ 相続 ・ 税金 ・ 投資運用など


C O N T E N S














 皆様の関心事に広く対応する
 テーマを取り上げております。







 ◎ コンタクト


 ◎ サイトマップ


 ◎ リンク


 ◎ トップページ






タイトル

出てきた年金


 7月の参院選挙の争点の一つとなった年金問題の余波がまだ残っています。年金問題には、およそ三分の一にのぼる「年金未納者の問題」や、年金保険料の積立金を使って開設したグリーンピア(保養施設)が大幅赤字の上、超格安で払い下げられる等の「年金流用問題」。更には、社会保険庁と関連企業とのもたれあいによる事務費の無駄遣いや汚職、いわゆる「天下り問題」等、多岐に渡って指摘されて来ました。

 これだけでもうんざりという気持ちの時に、止(とど)めとして出てきたのが「消えた年金問題」です。誰のものか分からない年金記録が5,000万件あることが露呈しました。日本の総人口は1億2,800万人です。総人口には20歳未満の子ども達も含みますから、成人に限ってみれば、大半の成人が消えた年金の“被害者”となり得る驚くべき数字といえます。そして、こんな大問題が今まで議論されてこなかったことにもびっくりです。

年金問題はハリケーン・カトリーナ

 日本の政治に詳しい米コロンビア大学のカーティス教授が、今回の年金問題は、安倍総理にとってのハリケーン・カトリーナだと説明していました。ハリケーン・カトリーナは2005年8月に米国南部を襲った大型のハリケーンで、ルイジアナ州ニューオーリンズ市民48万人が避難する大惨事を引き起こしました。ハリケーン・カトリーナによる被害発生はブッシュ大統領が引き起こしたものではありません。しかし、問題発生後のブッシュ大統領の対応の遅れとまずさが、大統領支持率の急落となって現れ、その後のイラク問題深刻化により大統領の支持離れが今に続いています。

 今回の「消えた年金問題」も安倍総理が引き起こしたものではありません。責任は明らかに過去の政治家や官僚にあるのです。しかし、一旦問題が発生(顕在化)したら、その問題を解決するのは現職総理の仕事なのです。ハリケーン・カトリーナも消えた年金問題も、問題が明らかになった時の最初の対応に、大統領や総理と国民の意識との間でギャップが生じたことが支持率の急落につながったと、教授が語っていました。つまり、国民に与える影響が大きい問題が“突発的”に発生(顕在化)した時の対応能力が国を預かるトップの資質として重要なのです。

消えた年金はプロの世界では常識だった

 年金問題は、「制度の問題」と、制度を運用する社会保険庁の「体質の問題」に分けられます。消えた年金問題は明らかに体質の問題です。消えた年金を作り出したことも問題ですが、この問題の解決努力を殆ど行なってこなかったことの方が許しがたいことだと、私は思います。問題を放置した点で、厚生労働省や政治家の責任は大きいと言わざるを得ません。

 実は、「消えた年金」は、社会保険労務士やFPの間では、“常識”となっていた問題でした。つまり、社会保険庁から送られてくる年金記録には抜け漏れが多いことを経験していたのです。そして、社会保険労務士やFPのアドバイスで、必要な情報を事前に整理、用意しておくことで、隠れていた年金記録が出てくることも多く経験していたのです。

 しかし、殆どの方は自分の年金の件で社会保険労務士やFPに相談されることはありません。年金給付裁定請求の手続きで社会保険事務所へ出向き、そこで示された年金記録を正しいものと受け止めざるを得なかったのです。

社会保険事務所の対応に変化

 今回の年金騒ぎで社会保険事務所現場の対応は大きく変化しました。今までは、年金記録の証明や質問は年金受給者側が行なうものとの姿勢が、現在は、社会保険事務所の方で、抜け漏れがあるかも知れないとの前提で丁寧に情報検索を行ってくれます。そして、既に年金の受給を開始された方の中にも、これから年金受給を受ける方の中にも次々と消えた年金が見つかった方が現れています。現在社会保険事務所の相談窓口は、平日は午前8時半から午後7時まで開いています。更に週末も相談窓口を開いています。やれば出来るのです。

 5,000万件の消えた年金問題が発生した直後、社会保険庁の相談窓口はパニック状態に近いものでした。相談者が一気に増大したため、私の地元の社会保険事務所でも、朝10時に受付番号を受け取った人が、実際の相談を受けたのが夕方だったとか、相談を諦めて帰らざるを得なかった方が続出しました。現在でも、最低2、3時間待ちを覚悟で行く必要があります。

5,000万分の1に遭遇

 私の妻は8月が誕生月です。今年の誕生日で60歳となりました、還暦です。結婚当初は共稼ぎ夫婦でした。子どもが生まれた後は専業主婦として過ごしてきましたが、共稼ぎ時代の厚生年金加入期間に対して年金の受給が始まります。8月のお盆休みに入る前の平日夕刻に二人で社会保険事務所に出向きました。経験からこの時間帯が最も待たされる時間が短いのです。目論見通り1時間程待たされた後、我々の番号が呼ばれました。

 妻が提出する書類は全部私が確認してあります。「相談受付は10分で終わるよ」、私が妻に告げていたせりふです。何せ“プロのFP”が目を通し、同行までしているのですから、何等問題が発生するはずがないのです。窓口担当の方へ書類を提出しました。年金給付裁定請求書は全部で8ページあります。担当の方が1ページずつ丹念に記入内容を見ていきます。途中幾つか確認の質問がありましたが、極めてスムーズに最後のページのチェックを終えました。

 さて、そろそろ手続きも終わりかと思い始めた時、担当の方から、「奥様の旧姓は何とお読みするのですか?」との質問。「旧姓は○○と言います」、妻が答えました。「そうですか、ちょっと難しい読み方ですね。△△とか□□とも読めますね。念の為、すべての読み方で検索してみましょう。」、そう言って二三分、担当の方から「奥様は高校を卒業されてからお勤めされていませんでしたか?」と言われたのです。

 妻は、その一言で過去の記憶を急に思い出しました。高校卒業後、5ヶ月間だけ民間会社に就職していたのです。そのことをすっかり失念していたのでした。卒業後、かねて希望していた米国でのホームステイの話が決まり、わずか5ヶ月で会社を辞め、単身アメリカに渡ったのでした。1ドル360円、一人500ドルしか持ち出せなかった時代のことです。二年間のホームステイと勉強を終え、日本に帰国し再び就職しました。そして私と結婚したのです。今回の年金記録は、結婚した当時の就業記録しか入っていなかったのです。最初に5ヶ月間だけ勤めたことは、本人の記憶の彼方へすっとんでいたものが、担当の方の一言で思い出したのです。

FPはクライアントの将来だけでなく過去にもかかわる

 増える年金額は少額でも、期待していなかった展開に妻は大喜びです。しかし、私の心境は複雑です。10分で終わると見栄を切ったのですが、結局30分が経過していました。プロのFPとして面目丸つぶれです。

 勿論、妻はこのことで夫である私を責めることは一切ありませんでした、それよりも年金記録確認の大切さを身をもって体験したことから、FPのアドバイスの重要性をより理解できるようになったのです。
 
 FPはクライアント(相談者)の今後のライフプランをより良くするためのお手伝いが主たる仕事です。しかし年金記録に関しては、クライアントの過去を正しく知ることが重要になってきます。それもクライアント自身が忘れているかも知れないとの前提で対応する必要があるのです。

 国のトップは、突発時に発生した問題に対しての対応力が資質として求められることを述べました。突発時の対応力は何から生まれるのでしょう。勿論、生まれ育った個人の資質もありますが、幅広い経験と深く鋭い現状認識力、それに確固たる信念が備わって出来ることだと思います。

 妻の年金問題は、また一つFPとしての経験の幅を広げてくれました。また、現状認識の重要さを再認識することにもなりました。決して無駄な30分ではなかったのです。


'07.8.21  木下 利信





↑ ページの先頭に戻る